日本の店で免税を受けるには、同じ店で、同じ日に、税抜5,000円以上を買う必要があります。税込にすると5,500円です。別の店の買い物を足すことはできません。決まりの数字は、税抜の「5,000円」で書かれています。

ところが、訪日客が実際に検索しているのは、その数字ではありませんでした。

検索されていたのは「5500엔」

訪日客向けの免税の情報サイト refund-japan.com で、直近3か月に Google の検索結果に表示された言葉を見ると、表示の回数がいちばん多かったのは韓国語の 「5500엔」(5,500円)でした。406回です。2位以下は「tax free japon 2026」の54回、「日本吃飯可以退稅嗎」(日本で食事は免税になる?)の32回と続き、桁が一つ違います。「5,500엔」とカンマを入れた形も15回ありました。

「5000엔」という、決まりのとおりの数字は、上位に出てきません。

検索された言葉表示の回数(直近3か月)
5500엔406
tax free japon 202654
日本吃飯可以退稅嗎32
5,500엔15

出典:refund-japan.com の Google Search Console(2026年10月26日に確認)。Google は検索の少ない言葉を表に出さないため、これは一部です。

なぜ、税込の数字で探すのか

いちばん素直な見方は、旅行者は棚の前で、税込の数字を見ているというものです。

日本では、値札に税込の総額を出すことが決められています(国税庁 総額表示の義務付け)。旅行者の目に入るのは「5,478円」「5,500円」といった税込の数字です。一方で、免税の線は税抜で書かれています。棚の前で「この買い物は線を越えたか」を確かめるには、頭の中で税抜に直すか、線のほうを税込に直すしかありません。

検索のデータは、旅行者が後者を選んでいることを示しているように見えます。線を、自分の見ている数字の側に引き直しているのです。

これは、研究会が「判断」の層で扱ってきた問いと同じ形です。観察ノート 003 では、同じ商品の値札を2,000円と1,980円で並べました。1,980円は「千円台」に読める、数字は左の桁から意味になる、というのがそこでの見立てです。数字は、書かれたとおりの大きさでは受け取られないかもしれません。免税の線もまた、税抜の「5,000円」としてではなく、値札と同じ物差しの「5,500円」として持ち歩かれている、というのがここでの仮説です。

線の手前で、何が起きるか

線がはっきりした数字として意識されると、その手前で人の動きが変わる可能性があります。目標に近づくほど努力が増えるという「目標勾配」の考え方(Kivetz, Urminsky & Zheng, 2006, Journal of Marketing Research)を当てはめると、次のような動きが考えられます。

  1. 合計が5,500円の少し手前のとき、もう1品を足して線を越える
  2. 別々の店で買うつもりだったものを、1つの店にまとめる
  3. 線を越えた時点で、それ以上は買い足さない

どれも、今の時点では データで確かめていない仮説です。検索のデータが示しているのは「旅行者が5,500円という数字を気にしている」ことまでで、売り場でどう動いたかまでは分かりません。

次に、棚の前で確かめること

この問いは、POS データと店頭の観察で確かめられます。

  • 免税で買われたレシートの合計金額は、5,500円のすぐ上に固まっているか
  • 合計が5,000〜5,500円の買い物では、最後に足された1品は何か(安くて小さいものか)
  • 値札の近くに「税込5,500円から免税」と書いた売り場と、書いていない売り場で、レシートの合計の分かれ方は変わるか

3つ目は、線を どの数字で見せるかという、見せ方の実験です。同じ決まりでも、税抜で書くか税込で書くかで、選ばれ方が変わるかもしれません。


この記事のデータについて

検索のデータは、訪日客向けの免税の情報サイト refund-japan.com(運営:株式会社APORON)から提供を受けました。免税の決まり(同じ店・同じ日に税抜5,000円以上、税込5,500円、店をまたいだ合算は不可)は、観光庁 消費税免税店サイト(2026年10月25日に確認)によります。

この記事は、本会の代表の草林が書きました。草林は株式会社APORONの代表でもあり、refund-japan.com は同社が運営しています。